13.1000年の夢 |
再び西塔門に復帰する。朝は今ひとつはっきりしなかった建物の配置がよくわかる。門の内側にあった山のようなデバダー像も確認できた。 アンコールワットはクメール王朝が一番輝いていた頃に造られた。カンボジアはその後没落の一途をたどっていくが、それでもアンコールワットは人々の精神的な柱だった。 クメール時代の数多くの建造物がジャングルに埋もれていく中で、ここだけはいつも人が通っていた。そのたたずまいにはやはり別格の風格がある。 時を過ぎ時代は変わっても、ここにはたくさんの人々が集まってくる。今日もまた、世界中から訪れてくる人々を粛然と受け入れているアンコールワットの姿がある。 |
14.回廊を歩く |
西塔門を過ぎ聖池のあたりまでぶらぶら歩いていく。午後3時ごろの日差しは依然として強い。その日差しに追い立てられるように僕は、アンコールワット中心部へと歩を進めていく。 第一回廊にはいちめんにレリーフが彫りこまれている。神話など複数のテーマが混在している。ラーマーヤナの神話や乳海攪拌の物語などのおなじみのストーリーもの。あるいは王の行進風景や天国と地獄の情景などもある。いずれをとっても非常に精緻な作品群。飽きることが無い。 見事な彫刻を見ていくと、とある場所でふと壁にあいた穴に気付いた。非常に無造作にいくつもつけられたその傷跡は、心無い観光客のいたずらかと思ったが、そうではなかった。 それらはすべて銃弾の跡だった。 |
15.中央祠堂へ |
第二回廊を過ぎると第三回廊が待っていた。 ここからいよいよ中央祠堂へのアプローチが始まる。第三回廊への階段は非常に急なつくりとなっており、登るのに一苦労だ。もっとも後で降りる方がもっと大変だということに気付いたのだが。 第三回廊は装飾的な要素の強かったこれまでの回廊と比べるとぐっとシンプルなイメージがある。登るのが大変なせいか人もいくらか少なめだ。 ここからの展望は素晴らしい。夕陽ポイントの一つでもある。すでに夕刻も近づいており、祠堂内には読書をして夕陽を待つ西洋人の姿もみうけられた。 中央塔には後世持ち込まれた仏像が安置されており、ここが単なる観光地でなく、未だ信仰の場所であることを思い出させてくれる。線香が常に焚かれている。 |
16.未来へ |
アンコールワットはやはり期待を裏切ることは無かった。カンボジアの人々に、特別の思いをもって慈しまれてきたこの寺院の風格の前では、自分の存在などいかにちっぽけなものかということを感じさせられた。 およそ1000年が過ぎ、また次の1000年に向けて、アンコールワットはカンボジアの人々だけでなく世界中の人々に向けて変わらぬ輝きを放ち続けている。 |
アンコールワットへ
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