映画 −2004−


13.誰も知らない(2003年日本)
観賞日 H16.11.7(日) 劇場 シネ・ラ・セット
監督 是枝裕和 出演者 柳楽優弥、エル・ガルシア・ベルナル他
コメント トータル2時間21分、ちょっと長すぎないか?このストーリーなら1時間40分もあれば十分だろう。内容がどうとか柳楽君の演技がどうとか言う前に、はっきり言ってだれた。この監督の淡々として穏やか中にストーリーを綴っていく手法は「ワンダフル・ライフ」を見て以来好きだが、それは当然その中で、メリハリをつけて描く技術を確立していればこそ評価できるのであって、今回のようにただただ長いだけでは共感も流れる。短くすればずっと良くなったと思う。

柳楽君の演技はぽ確かにすごい。あの意思の強そうな目は見る前から印象的だったが、ずっとあのイメージの演技かと思ったら、意外に屈託無く笑うし、表現力が豊かだと思う。その他の出演者もかなり地味だが良い演技をしてると思う。YOUのキャラがある意味強烈、なんなんでしょうねぇこのお母さん。

視点はおもしろいし、名作となる要素は十分あったと思う。しかしそれだけにあのだらだらと長いのがねぇ・・・。是枝監督の今後のためにもこの作品をあまり高評価するのはいかがかと思うのだが・・・。


12.モーターサイクル・ダイアリーズ(2004年イギリス=アメリカ合作)
観賞日 H16.11.6(土) 劇場 恵比寿ガーデンシネマ
監督 ウォルター・サレス 出演者 ガエル・ガルシア・ベルナル他
コメント キューバに行くまではチェ・ゲバラなんて、戦争好きのランボーみたいなノリのバカだとしか思ってなかった。そうじゃないことに気づいたのは、キューバに行ってその人となりを自分なりに調べたからだ。

この冒険記の存在は、多少でもゲバラのことを知ってるなら、周知の事実だろう。
ゲバラのことを知らない人なら、青臭いお坊ちゃまの冒険の記録、そして旅を通じての変遷の過程を見るだけで興味深いし、知ってる人間は後の彼の人生を重ね合わせて見ることになる。

この作品は、そういった多少なりともゲバラを知ってる人間にもある程度納得できるつくりになっているのでは無いだろうか?単純に旅行記としてみるなら、前半部分はちょっとメリハリが無く、やや詰め込みすぎでそれぞれのエピソードが断片的な描きすぎになってしまった感じはする。それにモーターサイクルの記録かと思いきや途中からバイク無しの旅になってしまったとは知らなかった。だが、本当に後のゲバラを想像できるエピソードが出てくるのは、バイクが無くなってからだ。そしてだんだんストーリーの焦点が見えてくる。

ゲバラは僕が生まれた年にボリビアの山中で殺された。ボリビアはこの旅の中で彼の世界に対する考え方に変化が生じ始めた頃に通った国だ。キューバ革命後もいったんはアフリカに転戦しながらもやはり南米という大地に戻ってきたのはこの大陸(それも中央より北側のエリアに)に特別な思い入れがあったのだろう。読書好き、生真面目、理想主義、平等主義など後の彼の人生を良くも悪くも左右する気質がこの作品中にも随所に垣間見られる(興味があったらキューバの記録ものぞいてみてくれ)。そして誰からも愛された部分も。

でもさぁ、ゲバラって大変なイロ男で、すごく女性にもてたし、当然かなりの女好きだったみたいなんで、あの女性に純情そうな描き方ってちょっと違うんじゃな〜い?と思ったりもする。


11.スウィング・ガールズ(2004年日本)
観賞日 H16.10.3(日) 劇場 新宿文化シネマ
監督 矢口史靖 出演者 上野樹里、平岡祐太、竹中直人他
コメント 作りはコンパクト。ウォーターボーイズの女子版である、かなり

ウォーターボーイズよりも前半はよくまとまっていて、あんまりだれなかった。その代わりクライマックスのカタルシスはほどほど。普通、
短期間であんな上手くなるわけね〜だろ、って突っ込み入るところは共通。スーパーで5人で演奏してるところに一度やめた連中がわっと参加して一緒にプレイしちゃうところ、ありえな〜い。

でも、細部をつっつくような作品じゃないんだよね。コメディとしてはよくできてたんじゃない。でもここんところ毒が少ないよね。次はもうちょっとぶち切れてるのを期待したい。西田尚美あたりの主演で。


10.スパイダーマン2(2004年アメリカ)
観賞日 H16.8.15(日) 劇場 新宿スカラ
監督 サム・ライミ 出演者 トビー・マグワイア、キルスティン・ダンスト他
コメント アクションだって見るのである。

と言っても「マトリックス2」以来だな。3は結局見に行かなかったし。ちなみに「スパ1」は飛行機の中で見た。
それがなかなか面白かったのと、狙っていた邦画が2本ともけっこう混んでたので、こっちに流れたのだ。

今回もなかなかいい。あんま深く追求するようなもんじゃ無いと思うが、今回はトビー扮する主役のピーターの心の葛藤が大部分。悪役のドック・オクは人工アームを振り回してるシーンばかりが目立って、キャラ的には前回のウィレム・ゴブリンよりは落ちるかも。ドックの中年太りのおなかは妙にほほえましかったし。ふっと思ったけどスパイダーマンて摩天楼が無いところじゃ間抜けなキャラになっちゃうね。

しかしなぁ、あんなに正体ばらしまくっちゃったら、もはや秘密でも何でも無いじゃないか。パート3はもちろん出来るんだろうけど、やっぱり謎のスパイダーマンで押し通すだろうか?


9.スチームボーイ(2004年日本)
観賞日 H16.7.25(日) 劇場 渋谷シネフロント
監督 大友克洋 出演者 (声)鈴木杏、小西真奈美他
コメント ちょっとイマイチかなぁ・・・

抜群にきれいな絵。少年の冒険譚と美味しい要素はいっぱいあるけど、オタッキーモードに入っちゃったかなぁ。
ちょっと説教臭いし。キャシャーンほどじゃないけど、日本人のはまりがちな罠にはいってるっぽい。ちょっと宮崎よりの万人受けするネタで、一般受けを狙ったような気がしないでもないが、それを持ち前のオタッキーな部分が邪魔した感じ。「AKIRA」 みたく良い方向に出るといいんだけど。

どうすれば良かったのか今ひとつよくわからないんだけど、エディ(父)とロイド(祖父)の確執を抑え目にするとかして、もっと主役のレイの見せ場を前面に出すと良かったんじゃない?スカーレットもとってつけたような役回りだったし。あと作品のテーマにしてはメカが前面に出すぎだよなぁ。このへんがオタッキーゆえの性なんだろうけど。

あとはじいちゃんのロイドの台詞回しがかなり気になった。中村嘉葎雄は役者としては一流だけど、声優としてははっきり言ってダメじゃなかろうか?

8.下妻物語(2004年日本)
観賞日 H16.7.11(日) 劇場 池袋テアトルダイヤ
監督 中島哲也 出演者 深田恭子、土屋アンナ他
コメント おもしろい!

なんか妙に「テルマ&ルイーズ」を思い出したりするんだが、総合点では微妙でもキャラだけなら、このファンキィな2人組のキャラの方が明らかに上。土屋アンナなんて予告編ではただのヤンキーにしか見えなかったし、ガキつくって結婚とか世間のゴシップが先行してたので、かなり嫌いだったが、作品を見て一発でファンになった。深キョンもいい。もっとどうしようもない役者だと思ってた。

またギャグのセンスが僕のツボにはまるんだわ。
全編むちゃくちゃなストーリーなんだが、そのむちゃくちゃ具合が逆に良くなってくるから、面白い作品なんてのは理屈じゃないんだなぁとつくづく思ってしまう。まぁ途中ちょっとだれたところもあるし、さらに疾走感でたたみかければもっと良かったと思うが、そんなもん二人のキャラをもってすれば大した問題じゃない。

最近良く見る阿部サダヲ、荒川良々。座長の松尾スズキも含めた「大人計画」の面々は最近ほんとにいろんなところでよく見る。今回も面白かった。でも、彼らがフィルムの上でどんなに良い演技をしても、舞台の上で見せる演技のすごさには遠く及ばないのも事実。「赤鬼」も再演やることだし、阿部サダヲ主演の「ローリング・ストーン」を再演してくんないかな。


7.世界の中心で、愛をさけぶ(2004年日本)
観賞日 H16.7.4(日) 劇場 日劇PLEX(銀座)
監督 行定勲 出演者 大沢たかお、柴崎コウ、長澤まさみ他
コメント 日曜日だというのに仕事して、夜中の鑑賞である。我ながらご苦労なことだ。公開後2ヶ月以上たったし日曜日の最終回ともなればさすがにがらがら。すでに散々ネタが出まわっているので、ある程度あたりがついていたが、結果的に言えばまずまず予想通りといったところ。

端的に言ってしまえば、話を泣きにもっていき過ぎだ。これでもかこれでもかと畳み掛ける設定。そりゃ泣きもしますわな。しかしねぇ・・・

ストーリー構成は少し「ラブ・レター」に似ている。後半はそうでも無かったが始まったあたりはダブった。僕は「ラブ・レター」を日本映画史上に残る傑作だと思っている。ではこの作品何が違うかと言うと、端的に言ってしまえば「美学の違い」とでも言えばいいのか?「ラブ・レター」も荒唐無稽なおとぎ話だが、徹底した岩井イズムが隅から隅まで行き届いている。作品に緊張感がある。この作品はそれに比べるとバタ臭い。これでもかこれでもかと来る泣きの展開というと、「サトラレ」を思い出す。確かに「サトラレ」よりは数段デキは良いのだが、結局のところ映画は泣ければ良いというもんでは無い。もともと原作のレベルが低いのかねぇと思ったり。

役者の方は長澤まさみがとてもいい。「深呼吸の必要」のしゃべらない演技の中に見せた一瞬の笑顔も良かったが、こんなふうにどんどん動き回らせてもgood。作品の半分ぐらいはこの子の熱演によるところが大きいね。逆に僕的には森山未來はミスキャスト。
森山は才能ある役者だと思うが、露骨に言えば品の無い顔がこの役向きじゃない。大沢のキャラとのギャップも大きすぎ。あとは柴崎コウ。この人はほんとに美人なのか?しかもこの人の顔もあの役向きじゃない。

まぁそれでもやっぱり泣きました。「助けてください!」と亜紀のウェディング・ドレス姿。その一方で途中だれて大あくびしたところも複数。


6.グッバイ・レーニン(2003年ドイツ)
観賞日 H16.6.6(月) 劇場 恵比寿ガーデンシネマ
監督 ヴォルフガング・ベッカー 出演者 ダニエル・ブリュール、カトリーン・ザース他
コメント 閉店間際の駆け込み鑑賞になってしまった。もっと早く見に行きたかったんだが。話題作だけあって終了が近くなっても混んでる。次の回は満席(ここは定員入替だ)だった。

作品の方は、予告編の通り面白い内容。
ただ、自分でも良くわからないんだが、期待ほどでは無かった。きっと最後のまとめ方が散漫だったせいだろう。よく練った前半に対して、父親の出し方とか、母親の告白だとか、息子の中で芽生えてきた東ドイツの夢に対する複雑な感情だとか、いろんなことを中途半端に詰め込みすぎたかもね。

もちろん総合的には面白かった。それにいろいろ考えさせられる問題も多い。ちょうど東欧圏を旅してきたばかりだしね。面白い作品というよりは誰もが見なきゃいけない作品という方が適切かもしれない。
ちなみにララ役のチュルバン・ハマートヴァってかわいいですね。タタール人とは珍しい。


5.深呼吸の必要(2004年日本)
観賞日 H16.5.30(日) 劇場 新宿ジョイシネマ3
監督 篠原哲雄 出演者 香里奈、谷原章介他
コメント 公開2日目にしてすでにがらがら。見る前からいや〜な予感がしたが、見事に裏切られた。これは良いよ。ほんとに、

沖縄モノもいいかげん食傷気味だし、こういう青春群像的なのもありきたり。題材からしてちょっと厳しい気がしたが、この監督それを逆手に取ってる。要はサトウキビ収穫のバイトに本土から集まった7人の話なんだが、7人のエピソードはおまけ程度にしてあくまでサトウキビ刈りをメインにおく。するとこの淡々とした作業を見ているうちになんだかとても温かい気分になってくるんである。美男美女をそろえてるのに恋愛関係の要素を排除しているのもある意味斬新。必須なはずの要素を排除したらこんなになったって感じ。

でもところどころにぴりっとスパイスの効いた台詞を含ませていて、これがまた味わい深いんである。「あんたの方がよっぽど逃げてんじゃないんすか?」大輔の放った言葉は、豊に突き刺さると同時に周りのみんなにも、そしてこの作品を見ていた人たちにも確実に突き刺さったハズ。「みんなで楽しくやって良かったね」だけじゃないんである。

メンバーの中ではなぜか主役のひなみのエピソードだけが軽いのだが、これも監督は承知のうえでおいてるはずだ。誰でもすぐ気づくことだから。この作業を経て多くを得た者もいれば「おもしろかった」で終わる人もいるわけで、この作品はサトウキビを刈る作品なんだから、別にみんなに劇的な転換点を与える必要も無い。シンプルなエンディングも必要にして十分。キャシャーンに見習ってもらいたいぐらい。こんなにあっさり終わらせてるのに、最後の方は妙に泣けてきて困った。

一つ間違うと凡作になりそうな作品を見事なバランスで見せた監督の力量に感服。というかおそらくこれは監督の制御範囲を越えて、一種化学反応のように一段昇華したんだろう。やっぱり今の日本映画はレベルが高い(はずれも多いが)。ハリウッドも映画にはこういう見せ方があることをもちっと勉強すれば多少はマシになるかもしれないね。本年度ベスト1というにはまだ残りが多いので保留しておくが、ベスト3以内は確実。


4.CASSHERN(2004年日本)
観賞日 H16.5.30(日) 劇場 新宿松竹会館
監督 紀里谷和明 出演者 伊勢谷友介、麻生久美子他
コメント 思うにこの人にはすごくセンスのきらめく部分とすごく凡庸な部分が混在しているに違い無い。映像技術は超一流。そのわりにダッサイまとめ方。これだけすごい映像があるんだから説教臭い語りなんか要らんと思うのだが。ラストなんて伊勢谷の陳腐な独白入れるより、ラストの映像にそのままヒッキーの歌かぶせていった方がぜんぜん良いのに。
しっかしそれにしてもなんか宗教的な内容だ。大コケにこけたファイナルファンタジーの映画も宗教的とか言われてたが、コケ方としてはあれに近いのでは?映像に懲りすぎたのはいいが、内容まで高尚になってしまい客がついていけなくなる感じ。それにしてもあれだけの映像があれば、語りなんて無くても映像だけで客を納得させることができるはずなんだが。傑作になる可能性を秘めていただけに、なんかすごいもったいない感じがする。
だが、次回作にはもう一度期待できる。これをどう次につなげるか?それが勝負どころだ。


3.ジョゼと虎と魚たち(2003年日本)
観賞日 H16.2.14(土) 劇場 シネ・クイント
監督 犬童一心 出演者 妻夫木聡、池脇千鶴他
コメント 犬童監督と池脇千鶴というと「金髪の草原」を見たことがあって、おもしろいところもあったけど、全体的にはイマイチという印象だった。今回も予告編は面白そうだったけど、どうかなぁと思っていた。
設定が、一歩間違うとばあちゃん犯罪に問われかねないくらい無茶苦茶なんだが、その無茶苦茶な設定のおかげでできたジョゼ(池脇)というキャラクターが作品の命。身障者で口がとても悪くって年寄りくさい話し方でいつもどこかさめているけど寂しがりや、池脇千鶴はほんと難しい役にがんばってました。
ジョゼは下半身マヒの身障者。恒夫(妻夫木)はどこにでもいる、軽めの大学生。なりゆきが積み重なって始まったような恋は、最初から終わりを目指してた。そしてお互いにそれを感じてた。二人とも極力それを考えないようにしていた。
ラスト、泣き崩れる恒夫の姿。でも一しきり泣いた後、普通の暮らしに戻っていく。陳腐な言い回しだけど、行き着くところは若かった二人の恋。傷みだけを残して。
そうそう、「ア・ラ・カルト」ファンならおなじみの陰山泰さんが麻雀屋のマスターとして登場。他にもSABU監督や「ピンポン」でもおなじみの荒川良々、大倉孝二もそれぞれいい味出してます。


2.死ぬまでにしたい10のこと(2002年スペイン・カナダ)
観賞日 H16.2.11(水) 劇場 シネ・アミューズ
監督 イザベル・コヘット 出演者 サラ・ポーリー、デボラ・ハリー他
コメント なるほどこんなところで終わるのか・・・
というのが見終わった時の感想。泣けたか?といわれればほとんど泣けなかった。この作品、主人公がいつ死ぬかよりも死ぬまでに挙げた10個の課題をどうやって達成していくかの方が重要なのだ。だから必ずしもアンが死ぬまで描く必要なんか無い。監督は間違いなくありきたりな涙モノに陥りるのを避けようとしているし、そういうところはこだわりを感じられて良いと思う。
10個の課題の中にはエゴとしか思えないようなのもあって、きれい事ばかりで無いのも良いところだ。人生の一番最後で、良いか悪いかではなく、何よりまずてめえの納得することを目いっぱいやりたいというアンのこだわり。巻き込まれる方(リーとかね)は迷惑な話だが、個人的にはそういった思い入れの方を買う。
描き方にいまいちメリハリが無かったのが残念。アイデア先行になっちゃったかな。あと2番目の「娘たちの気に入る新しいママを見つける」ってやつ。10個のリストみんなある意味自己満足の固まりなのだが、これだけちょっと性質が違う気がしてそれもちょっと不快だった。無理やりオチつけて終わらせた感じもあって、ここで評価を下げたね。う〜ん惜しい。


1.テン・ミニッツ・オールダー 人生のメビウス(2002年ドイツ・イギリス)
観賞日 H16.2.11(水) 劇場 恵比寿ガーデンシネマ
監督 ジム・ジャームッシュ他6名 出演者
コメント 10分の短編を寄せ集めたオムニバス作品。

と、言ってしまえば普通だが、それぞれの作品を撮ってる監督がすごい。ジム・ジャームッシュを始めとして、ビクトル・エリセ、アキ・カウリスマキ、ヴィム・ヴェンダース、チェン・カイコー、ヴェルナー・ヘルツォーク、スパイク・リー。よくこんなに集めたもんだといわんばかりに巨匠がそろっている。映画ツウなら絶対に無視できないメンツだ。

オムニバスで監督がこのメンツ。見る前にこんなものだろうというある程度の予想がたっていた。ところが実際はこれを超えていた。スパイク・リーとヘルツォークはまぁこんなものだろう。ジャームッシュが一番らしい作品を撮ってると思う。ヴェンダースは面白かったが音や視覚効果に頼るあたりちょっとずるい。カウリスマキは面白かったけど「過去の無い男」を見てから見るとまた違ったんだろうなぁ。残るエリセとチェン・カイコーは予想以上。

ここではベストの2人だけに絞ることにする。チェン・カイコーは「北京ヴァイオリン」がアタマにあったので、どうかと思ったが、「北京ヴァイオリン」ようなタダの人間ドラマじゃない、よっぽど面白くて味わい作品になっている。絵画風景の入れ方などどきっとした。淡々としていて深い。中国映画の中では、失われつつある北京の胡同の風景を惜しむような作品が最近多いが、中国政府もこの重要性に気づいて何とか対策して欲しいものだ。大切なものをどんどん放り出してしまったどこかの国のようにならないように。

一番はエリセだ。10年に一本しか作品を撮らないこのおっさんの作品はずいぶん前に「みつばちのささやき」と「エル・スール」を見たきりで、何となく退屈な文芸作品を撮ってるような気がしていた。ところがこれが違った。核に布切れに流れ出す血の映像を据えてそれに周りの人のいろんなシーンを次々とかぶせていく。ちょっとアルトマンの「ショート・カッツ」っぽい感じ。これが赤ん坊の泣き声とともに一気に一方向に動き出す。赤ん坊の処置が終わった後もそれだけでは終わらせない。1940年という時代背景をバックに重ねストーリーにもう一ひねり加える。これが10分の作品とは到底思えない。すごい作品である。「10年に一度が10分かよ」と思ってたのだが、十分許す。

唯一難点をつけるとすれば、これだけの巨匠ぞろいなのだから、一編一編のつなぎとかエンドクレジットだとかもっと簡素なものにしても良かったんじゃなかろうかという点。各編アタマの監督のサイン入りの紹介や一編毎のエンドクレジットはこういう本物ぞろいの作品には必要ない。さらっとやってくれたらもっと味わいが出たと思う。



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